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例文の楽しみ

 このブログでも何回か言及した千野栄一『外国語上達法』に,よい学習書の条件があげられています。

 ① 課題をスモールステップで構成されていること。あまりにも次々と新しいことが出てきて,学習者が絶望しないようになっていること。

② 学習者が,自分の学習がどの地点まで来ているか,常に確認できるようにして,「ああ,ここまでわかった,一つ山を越えた」という達成感を得られる教材。

③ 語彙が精選され,新出単語には必ず訳がついていること。「語学は徹底的に辞書を引かなければならない」というのは,少なくとも初歩の段階では,誤った学習法である。最初は,とにかく与えられた意味を覚えることが重要である。

④ 文法は,重要なもの,易しいものから順に並んでいなければならない。往々にして,重要なものほど難しい場合があるが,そのときは易しいものを優先すること。また,例外的なことと基本的なことの区別が,はっきりとなされていること。

⑤ 単語にしろ,文法にしろ,大切な項目は早い時期にでてきて,その後,繰り返し出てくるようになっていること。覚えた単語や文法が二度と出てこないのでは,せっかく覚えた努力が報われない。単語は絶えず繰り返し登場させることで,定着を確実にし,また,学習者に再出の喜びを味わわせる。

⑥ 毎回,一定量の学習がしやすいように,各課の量が一定であること。

⑦ 例文は,断片的なものよりも,意味のまとまりのあるスキットで構成されているのがよい。そうなっていれば,テープを聞いて覚える場合に覚えやすい。また,文法を学習させるために無理矢理作った文よりも,実際にそのまま使える例文がよい。

⑧ イラストやデザインに工夫があるのもよいが,もっとも重要なのは,例文の面白さである。

 最後に挙げられている「例文の面白さ」ということですが,これが難しい。どんな例文が面白いかは,人によって違うからです。

 昔,ドイツ語を少しかじったとき,サッカーの試合を描写した例文がありました。当時(25年ぐらい前),まだJリーグなどというものもなく,全日本代表も弱く,スポーツといえば野球でした。私もサッカーにはまったく関心がなかった。それで,そのドイツ語のスキットにはちっとも興味をもてなかったことを覚えています。

 タイ語では,これまでに何冊か学習書を購入し,ほとんど途中で挫折しましたが,例文の面白さという意味で際立っているのが「やさしいタイ語会話」(山田均/UNICOM,1996)。

 まあ,先に述べたとおり,何を面白いと思うかは個人別なので,ほかの人にとっては面白くないかもしれない。でも,私には面白かった。

 たとえば,語彙の学習(5)の例文は,この本からのパクリです。

A(男):あなたは学生ですね?
B(女):はい,私は学生です。
A(女):あなたはボクサーですか?
B(男):いいえ,私は政治家です。

えっ? 面白くない? そうですか…。

(この政治家はどんな面構えだったんだろう。ボクサーと間違えられたということは,顔がさぞかし精悍なんだろうなあ。傷だらけかもしれない。目つきも悪そうだ…。国会でよく乱闘するんだろうか…)

なんて想像しませんでしたか?

そのほかに,こんなのもある。

A(男):この辺に本屋がありますか。
B(女):ありません。
A(男):図書館がありますか?
B(女):図書館もありません。

(なんとかわいそうな…。)

A(女):どこにいらっしゃるのですか?
B(男):大学に行きます。
A(女):勉強を教えに行くのでしょう?
B(男):いいえ,新聞を読みに行くのです。

(この男性は教授で今日は授業が休講なんだろうか。それとも近所のおじさん?)

A(男):ぼくの女房はまだかわいいよ。
B(女):私のおばあちゃんもまだ若いわよ。
A(男):もう水浴びしましたか。
B(女):まだです。

(この男女はどんな関係で,この会話はどんな場所でなされているのだろう…。興味津々です。)

動物園での親子の会話
B(子):あれは? 何?
A(父):あれはトラだよ。
B(子):何をしあっているの? 大きいのが小さいのにまたがってる。
A(父):子供が興味を持たないでいいよ。ライオンを見に行こう。
B(子):いやよ。わたしゾウを先に見るの。

(せっかくの性教育の機会だったのに…)

スキットではなく,たんなる例文でも印象的なものが多い。


「~するのが好き」の例文

あなたは本を読むのが好きですか,書くのが好きですか。

(読書好きの人は多いだろうけれど,「本を書くのが好き」っていったい…? 作家?)

女性のそばにいるのが好き。

(私も嫌いではないが…)


「まだ~」の例文。

彼はまだ悶々としています。

(何に「悶々と」しているんだろう?)

お姉さんはまだケチです。

(水商売であんなに稼いでるのに少しぐらいお小遣いちょうだいよ,という妹の不満かな?)


「よく~する」の例文

ウソばっかりついて!

(もしかして奥さんからよく言われてるのかな)


「どこで~したらいいだろう」の例文。

どこで泣いたらいいだろう。

(人に見られないところで思いっきり泣きたいのかな。何があったんだろう)


 これらを面白いと思うか,あやしいと思うか,怪しからんと思うかは,学習者によって意見が分かれるところでしょう。私は面白いと思いましたが…。

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コメント

先生の直系の弟子です。

あのヘンな例文は、先生のバンコクでの生活から来ているものだと仰っていました。

私は、病院でのやり取りの会話と宝くじに当たったっていう例文が好きです。

タイ語で、、、宝くじに当たったって使う機会は、そうそうないのですが、、、先生らしい文ですw

投稿: chang@chiangmai | 2008年10月 9日 (木) 13時20分

チェンマイさん

コメントありがとうございます。

そうでしたか。
独特な味わいのある例文で,楽しめます。

先生はたぶん会議が嫌いなんでしょうね。

>タイ語で、、、宝くじに当たったって使う機会は、そうそうないのですが、、、

「おしりのおできが痛い」も,まず使わないでしょう(笑

投稿: 犬鍋 | 2008年10月10日 (金) 00時39分

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